
「あの出会いがあったから今がある」3度目の正直をサブプロジェクトに懸けた理由
本記事は、CotoLab. 西村さんのamiライブ配信の書き起こしです。
起業家紹介
株式会社CotoLab. 代表取締役 西村 謙大
個人のプレイリストにファンが付く
amiファシリテーター 町田(以下、町田)
CotoLab.の西村さんにお越しいただきました。
本日は西村さんが今まで3つのサービスをつくられてきた中で、特に2つ目と3つ目のサービスの部分にフォーカスしていきたいと思います。
まず最初に、今されているサービスについてご説明いただいてもよろしいでしょうか?
CotoLab. 西村さん(以下、西村)
よろしくお願いします。
今、弊社では音楽事業をベースとしたWEBサービスとメディアを運営しております。
1つがDIGLEという音楽プレイリストをシェアするサービスで、Spotify上で公開したプレイリストをわれわれのサービスで通してシェアすることで、他のユーザーさんに紹介したり、「いいね!」がもらえたりするプラットフォームです。
もう1つがDIGLE MAGAIZNEという、プレイリストをベースとしたメディアを運用しております。
こちらでは、日々面白いプレイリストを紹介したり、プレイリストを絡めたアーティストさんのインタビューなどを掲載しています。
町田
たとえば、Spotify上で自分でつくったり、よく聴くプレイリストを、「僕はこれを聴いていますよ」といった感じで他の人にシェアできるというイメージですか?
西村
そうですね。シェアしたプレイリストにフォロワーがつく仕組みになっているので、われわれのサービスを通じてシェアすることで、個人が作ったプレイリストに対してファンが付くような世界を実現したいと思っています。
起業してからの3つのターニングポイント
町田
今はその事業をされていますが、このサービスに行き着くまで違う事業をされていたんですよね。
西村
もともと音楽に関連したサービスをつくろうと思い、共同の創業者のエンジニアと一緒に会社を立ち上げましたが、そのときはバンドマン向けのサービスをつくっていました。
自分がバンドをやっていたとき、メンバーを見つけるのがとても難しく、全然バンドを組めなかったんですね。
なので、ギターやボーカル、ドラムをやっている人が簡単にマッチングして、簡単にバンドを組めるようになるマッチングサービスをつくろうと思っていました。
マッチングしただけでは、お互いに好きな音楽も違いますし、相性が合うかも分からないので、Web上でそのままセッションできるようなアプリケーションをつくろうとしていました。ヤマハさんと技術的な部分でNDAを結んだりもしたのですが、通信環境や端末の問題でつくることが難しく、最終的に断念しました。
辞めようとアイディアを探していた時に、知り合いの起業家から「ラジオがこれから面白いんじゃないか」と言われ、そこから音楽をもっと広い枠組みで捉えて音声領域に注目した結果、ラジオアプリをつくろうと思いました。
それこそ今となっては、Voicyさんが運営されているようなユーザーが投稿するかたちのもので、可能性も感じていたのでiOSをアプリをリリースする直前くらいまで開発をしていました。
それと同時期にSpotifyというサービスが日本に上陸することを知りました。僕自身音楽が好きなのもあり、Spotifyに関連したサードパーティーのサービスが海外では多く出ていたのを知っていたので、同じものを日本でもつくりたいと思い、サブプロジェクトで今のDIGLEの初期バージョンをつくり始めました。
実際につくってみたら、サブプロジェクトにも関わらず、レーベルさんからたくさんの問い合わせがきたんですね。そのとき「こっちでやったほうがいいんじゃないか?」と感じ、DIGLEをメインにやっていくことを決めました。そういった経緯でDIGLEが3つ目のサービスとなります。
マーケットと想いが交錯して生まれたサービス
町田
なるほど。1つ目のサービスは、おそらく西村さんがずっとバンドをされていて、その時課題を感じたから取り組まれていたと思いますが、2つ目のサービスはどのようなきっかけで始めたのでしょうか?
西村
始めた理由は2つあります。
もともとラジオは面白いと思っていました。音楽もそうですが、たとえばオフィスで流したり、電車の移動中に聴いていたりするように、何かをしながら聴ける「ながら聴き」ができることが面白いと思っていました。また、動画とも違いSNSなどを見ながらも聴けるのも面白いと思います。
そこにニーズがあるんじゃないかと思ったのが1つ目のきっかけです。
もう1つは、日本は移動距離が短いので、尺が短い音声コンテンツの需要があると感じたことです。
町田
市場の大きさと自分がやりたいという想いの2つの要素で事業を分けると、1つ目のサービスは後者の要素が大きいです。
そして2つ目は、どちらかと言うと前者を重視したということですか?
西村
そうなりますね。
そして今やっているDIGLEは、その2つの要素で考えたとき、自分の思いもありつつマーケットとしても可能性があると感じています。
町田
そのあと2つ目のサービスと同時にサブプロジェクトを始められたんですよね。
1つ目があまりうまくいかなかった後に2つ目を始められたとなると、なかなかサブプロジェクトに力を注ぐのはリスクもあり難しい気がするのですが、どのくらいの配分でされていたのですか?
西村
サブプロジェクトをやろうと決めた理由は、今は弊社のデザイナーが当時たまたま副業でサブプロジェクトに入ってくれたのが大きいです。
「外部の人が助けてくれるんだったら、とりあえずやってみるのはありかな」といった軽い感じで始めました。
社内のリソースだけじゃなかったのは始めようと思ったきっかけとして大きいです。
町田
趣味に近い感覚で始められたということですね?
西村
まさにそうです!課題ベースというよりは、音楽が好きだし、コミュニティ文化が海外ではできてきていたので、それを日本でも作りたいという想いからスタートしています。
口座の残高が20万円に
町田
「サブプロジェクトをやったらポジティブな声が多かったのでピボットしました」と冒頭でサラっとおっしゃっていましたが、とはいえ2つ目のサービスにも多くのリソースを割いたとなると、そう簡単に事業を変える意思決定はできない気がします。そこはどのような流れで意思決定まで至ったのでしょうか?
西村
その決断はとても難しかったですが、2つ目のラジオアプリが自分たちでマーケティングを仕掛けていかないと広がらない仕組みだと感じたのでピボットを決断しました。
ラジオアプリに比べてDIGLEは、マーケティングをしない段階からレーベルさんの反応がよかったのも、好感触を持った理由として大きかったです。
簡単に言うと「すでに明確な顧客がいるんだったら、そっちをやったほうがいいんじゃないの?」ということですね。
実際、「ユニバーサル・ミュージック」や「ワーナー・ミュージック」という名前をDIGLEのβ版のプレスリリースに入れることを許可していただきました。
あとは、自分自身でもよく分からないですが、「成功できるんじゃないか」という確信に近い感情がありました。
それらを踏まえた上で、海外で同様のプレイリストサービスがワーナーミュージックさんに買収されてたというニュースがあり、成功の可能性が増していることを肌感覚で分かったことで、大丈夫だなと思ったことが最後の一押しになりました。
町田
実際、2つ目のサービスをつくっていたとのことですが、資金面は大丈夫だったのですか?
西村
めちゃめちゃヤバくて、一度口座の残高が20万円ぐらいになり「これはもうヤバい」ってなりました。(笑)
起業当初はWeb制作の受託などもやっていましたが、2つ目をつくり始めたとき完全にプロダクトに集中しようと決めたので、政策金融公庫などから受けた融資だけでやっていました。
「このままじゃ融資も受けられないし、いよいよまずい!」という状態だったのですが、たまたまその時に著名な投資家の方に出会い、数百万円ほど投資していただき、その後シードラウンドである程度調達できたので今があるという感じです。まさにめちゃめちゃギリギリの綱渡りでした。
町田
残高が20万円のときってどういう気持ちになるんですか?
西村
口には出さないですけど、やりたくないと思ったらつぶれると分かっていました。
なので、やるしかないという感じでした。「とにかく動けるだけ動いたら、何かあるかもしれない」と思って動きまくっていました。
レベルアップをして生き残る
町田
具体的にどんなアクションをとっていたのですか?
西村
20万円しかないときは、自分個人のお金を会社に貸すしかないと思ったので「自分のお金が尽きるまでは、支援してくれる人を探しまくろう」ということで探し回っていました。
VCからの調達はかなり厳しいと思っていたので、サービスや僕たちがやっていることに対して共感してくれそうな人を自分でピックして、「今は資金的にヤバいんですが、これを乗り切れば絶対うまくいきます」と言って、ただただ未来のビジョンを伝えていました。
町田
そのときは事業を完全にDIGLEに転換していたのですか?
西村
していました。切り替えるタイミングでは、「まだ数カ月は資金は大丈夫だよね」というタイミングだったので、調達して乗り切ろうと思っていましたが、なかなか調達がうまくいかず、結果的に残高が20万円という状況に陥った訳です。
町田
今まで出てきていただいた起業家の方も、ヤバくなってもとりあえず前に進むしかないので、感覚的にはRPGと同じで「ひたすら目の前の問題をどうやって倒すか考え続ける」とおっしゃっていましたが、感覚的にはそういう感じですか?
西村
そうですね。それこそ、資金が20万円しかないのはHPがない状態と同じなので、回復しないといけないですよね。つまり、回復できる仕組みをひたすらゲームのように探すしかないんですよね。
だから、強い敵は無理なんですよ。(笑)「とりあえず弱い敵を死ぬ気で攻めて、レベルアップをして生き残る!」という感じです。
運命を決めた1通のダイレクトメール
町田
そんななかで、運よく投資してくれた方に出会ったということですね。
その方とはどのように出会ったのですか?
西村
たまたま読みたかったフェス本の出版イベントがあったので、話を聞きにいったときの対談相手がその方だったんですよね。なので、生粋の投資家ではないです。
本を書いていたりするジャーナリストの方で、投資はほとんどしていなかったのですが、「実はプレイリストってずっと面白いなと思っていて、そういうメディアを立ち上げようという話もいくつかあったんだよね」と対談で話されていたんですよね。
それを聞いて「まさにうちがやっていることだ、これは絶対イケる」と思ったのですが、そのときはすぐ退席されて名刺交換ができませんでした。
そこで、後日Twitterで「1度だけでいいので会ってくれませんか?」とダイレクトメッセージを送ったところ会ってくださることになりました。
そこで「お金がないので投資していただきたい」というお話をしたところ、「ちょっとだったらいいよ」という感じで、その場で投資が決まりギリギリのところで生き延びたというのが全貌です。
これこそ綱渡りですね。(笑)
そのとき、動いたから今に繋がっていますが、逆にダイレクトメッセージを送らなければ、今ごろ活動できなくなっていたかもしれません。
町田
たまたまが重なって今のサービスができているといっても過言ではないですね(笑)
西村
本当にそうですね。とても運と人に恵まれていると思います。
いろんな人に助けてもらえたことで、「僕1人ではできなかったことでも今は成り立っている」ということを日々忘れないようにしています。
町田
投資家の方と出会ったこと以外にも、人とつながっていたことで、大きくプラスになったことはありますか?
西村
たくさんありますが、それこそDIGLEはサブプロジェクトとして進めていたので、自社のリソースだけで開発をするのはかなり難しかったんですね。
ただデザイナーの方が、「面白そうだね、やってみよう」と言ってくれたことで開発を続けることができました。
さらに今はうちの会社にジョインしているので、そういうところにもタイミングや人との出会いの重要性を感じます。
町田
運が良かったり、周りに恵まれる環境をつくるために、西村さんが気を付けているポイントはありますか?
西村
お互いにwin-winの関係でないと、すべての物事はうまく成り立ちにくいかなと思っています。
たとえば、僕が提案したことを受け入れてくれる人に対しては、向こうのメリットもちゃんと考えるとか、向こうにとって何が提示できるかといった部分は大事なのかなと思っています。
町田
「課題解決系のサービスじゃないと、調達するときの伝え方が難しそう」というコメントが来ていますがいかがですか?
西村
たしかに難しいですね。僕らがやっている領域は音楽なので、何か困っている現状を解決するというよりは、幸せをつくっていくという世界観なので、やはり調達する際は難しいんです。
ただ、調達するときは「どういう世界をつくりたいか」という起業家のビジョンや思想が大事かと思っているので、そこが明確なのであれば、共感してくれる投資家は必ずいると思っています。
いろいろこれからぶつかるかもしれない困難を考えて立ち止まりそうなときもあると思いますが、やりながら考えるが大事かなと思います。
町田
やりながら考える。
西村
それこそ、起業したときは調達をしたこともないので、調達未経験のまま、調達せざるを得ない状況になるんですよね。そうすると、自分で勉強しながらも、調達のために動く必要があるわけです。
また、1度立ち止まってから動くのは大変だと思っていて、分かりやすく言うと、MBAを取ったら起業できるかと言うとそういうわけじゃないですか。
別にMBA取らなくても一流の起業家になっている人は多くいるので、結局は行動しながら自分で勉強したり考えていくことが重要だと思っています。
町田
たしかに、さっきの残高20万円になった時も1度立ち止まって考えたら「もうきついし無理だ」となり動けなくなるかもしれないですね。
西村
そうですね。だから、動きながら現実を見るのがおすすめです。(笑)
町田
ということであっという間に20分が経ってしまったので、ぜひ第2回目の配信でサービスのについても詳しくご説明いただければと思います。
1回目の配信をしてみてどうでしたか?
西村
早かったですが、楽しかったです。
町田
次はこういうところを話してみたいという話題はありますか?
西村
つぎは今日話せなかったサービスのお話とかもできればいいかなと思います。
町田
今日はありがとうございました。
西村
ありがとうございました。
文・写真:ami編集部