
「0か100の決断をいきなりしなくてもいい」就職、上場、起業を経験して辿り着いた”手ざわり感の見つけかた”
本記事は、LiB松本さん(@yosuke_m)のamiライブ配信の書き起こしです。
株式会社LiB 代表取締役 松本 洋介さん
amiファシリテーター 佐久間(以下、佐久間)
本日は、LiBの松本さんに起業に至るお話を中心にお伺いしたいと思います。
LiBについてご紹介いただいてもよろしいでしょうか?
LiB 松本さん(以下、松本)
はじめまして。株式会社LiBの代表の松本と申します。
LiBは「女性のライフキャリアが豊かになる仕組みをつくる」というビジョンを掲げて、ライフイベントや人生のタイミングに左右されずに、キャリアや自分のプライベートの夢を大事にできるような選択肢を増やす事業を行っております。
子供を育てるといったライフイベントがあった場合、男女問わず仕事との両立が難しい場面が少なくありません。さらにこれから先、少子高齢化が進んでくると両親と向き合う機会が増え、男性女性関係なく誰かを支えながら働く世界になってくると思います。
そういったときに、仕事か家庭かといった話にならず、「どちらも大切にしながら生きていける」選択肢を増やしたいと思い事業をやっています。
佐久間
私が働いているユーザベース(amiはユーザベースのグループ会社である株式会社ジャパンベンチャーリサーチが運営)も出産して戻ってこられた方など多くの女性社員が働いていています。なので、私自身も問題意識を感じる場面もあります。
松本さんはLiBを創業されて前にリクルートに最初入られて、その後トレンダーズで役員をされていますが、なぜ最初にリクルートに入られたのですか?
松本
会社の仕組みや勝ち方を組織の中から学ぼうと思ったためです。
学生のときに自分で稼ごうと思い起業したのですが、ノウハウも知識もない中で戦うのは非効率だと感じそれを学ぶためにリクルートに入りました。
その後、リクルートで4年間働き、今は東証マザーズに上場しているトレンダーズというPR会社に15人ぐらいの時に飛び込みました。
なので、「新卒で大手に入社した後、15名のスタートアップに役員として飛び込み、上場まで経験した」というのが起業するまでのキャリアです。
その後0→1で事業を作るためにマンションを借りて4人から起業したので、役員、社員、起業家と全てを経験しました。
佐久間
リクルートには会社の仕組みを学ぶ目的で入られたということですが、実際入社されてそれは学べましたかいかがでしたか?
松本
すごく好きな会社でもありますし感謝もあるので、「学べました」と言いたいところですが、「心のどこかで本当に学びたいこととは違うな」という思いがあったので、4年で卒業したんだと思います。
仲間も楽しく上司も優しかったので、居心地がよくなっている自分に気付いてやばいなと思い、卒業したというのはあります。(笑)
佐久間
辞めるときに、起業するという選択肢もあったと思うのですが、そうではなくトレンダーズさんに役員として飛び込まれたのはなぜですか?
松本
リクルートを辞めるとき、2つの選択肢を考えていました。
1つはゼロから起業しようというもの、もう1つは既存の組織で意思決定できる立場で働くというものです。
社長という立場にこだわりはなかったので、自分で意思決定をして自分の作品をつくれれば、別に役員でも構わないと思っていました。
そんな中でフラットにいろいろな方と話をしていた時、ある社長が「よかったら松本君、会ってみないか」と繋いでいただいたのが、当時トレンダーズの社長だった経沢さんでした。
その時に「トレンダーズは上場目指してこれから伸ばそうと思っているから、よかったら起業する前に一緒にやって、上場会社をつくる経験をするのも松本君にとってもプラスになるんじゃないか?」という話をいただいて、面白いなと思い飛び込みました。
佐久間
飛び込むことは大きな意思決定だと思うのですが、決意したきっかけはありますか?
松本
リクルートで働いていて「手触り感」があまりなかったことが大きいです。
学生で起業したとき、事業自体は小さな船で何もありませんでしたが、少なくとも自分の作品をつくっている感じはとてもありました。
しかし、大手に入ると手触り感がとても少ないなと感じました。
たとえばNTTドコモさんに入ったとして、ドコモの携帯電話を「自分の作品だ」と思える人はなかなかいないと思います。もちろん広い視野で見れば自分も関わる作品ですが、なかなかその手触り感を感じることは難しいと思います。
なので、どれだけコミットしても「たしかに自分の大学だけど、卒論をつくっている感じではなく、大学を掃除しているような感じ」がしてしまって。
佐久間
とても分かりやすい例えですね。
松本
もう少し詳しくいうと、20代という若い時間、パワーを投資するのであれば、自分の評価、作品、実績といった結果が、自分の努力に直結して返ってくる状況を求めたのではないかと思います。
佐久間
昔から組織であれモノであれ、自分でつくり上げていくことが好きだったのですか?
松本
今だと競争よりも共に創るで共創が重要だと思いますが、当時の僕はもっと若かったので、「ホットペッパーを伸ばしても俺の人生は伸びるんだろうか?」と思ってました。(笑)
若くて生意気だった分、「自分にリターンが返ってこないもののために、どこまで頑張るんだっけ」と考える自分がいたと思います。
佐久間
自分も伸びるかもしれないけど、十分ではないなと思ったということですね。
松本
なので、いいサラリーマンじゃなかったんでしょうね。
佐久間
松本さんが仕事を進める上での価値観として、「組織、人にフォーカスする」もしくは、「手触り感をもった達成にフォーカスする」という2つに分けるとすると、どちらが大きいでしょうか?
松本
定義の問題ですが、手触り感を持てるかどうかは「自分事化できているか」が大切だと思います。
なので、「このビジネスがうまくいくとこういう世の中になるから貢献したい」と思ったものであれば、その大小に関わらず誰でも手触り感を得ることができます。
たとえば、ソフトバンクのように「情報革命に僕も携わっているんだ」とテーマに惚れて自分事化できれば、ソフトバンクに入っても規模に関係なく満足感を得られるのではないでしょうか。
佐久間
とはいえ多くの人にとって、その「自分事化をできているか?」という思いだけではなかなか(起業や転職といった)大きな意思決定に至らないと思うのですが、なぜ松本さんは乗り越えられたのでしょうか?
松本
1つは、学生起業の経験を通じて自分事化する重要性を知っていたので、自分事化できていないときに異常に違和感を感じたためです。
もう1つは、「鶏口牛後」の考え方です。子どもの頃からこの言葉が好きで、「大きな組織の後ろにいるよりも、小さな組織の頭であれ」という考え方を大切にしています。
その2つから、何かに守られて居心地がいい環境は怖いなと思い、鶏口牛後を実践するためにも、手触り感を信じて最後は「エイヤ!」という感じで飛び込みました。
佐久間
一般化すると、「学生時代に小さな組織のリーダーになり、手触り感がある組織を体験していたので、入社後に違和感が強烈になった段階で、それを解消できる環境に飛び込んだ」ということでしょうか。
松本
あとは、意思決定をするために、違和感を感じたときにたくさんの人に会いに行きました。
ある日、突然思い立って飛び込んだわけではなく、起業した人や企業で残って活躍している人の話を聞いていく中で、さっき言ったようにトレンダーズさんと出会って「一緒にやらない?」といったきっかけが来たんですよね。
飛び出すかどうかをいきなり決めずに、まずはたくさん話を聞いてみるというアクションは誰でもできると思います。それをしてみると、思いが強くなるのか、諦めがつくのか、もしくはきっかけが来たり、何かしら次に進むはずです。
なので、0か100かの決断をいきなりしようとするのではなく、まずは動いてみることはお勧めです。
佐久間
いま大きな組織にいて、「手触り感がもう少し欲しい」という違和感を感じている人は「まず動け」ということですね。
松本
そうですね。自分の気持ちを確かめたり、高めてたり、もしくは冷ましたりするためにも、まずは何かしら動いてみるのがいいと思います。
佐久間
松本さんにもそういった相談が来ると思いますが、そのような時はどのような対応をされていますか?
松本
「なぜそう思ったのか?」といった背景にある想いを聞きます。
相談に来るということはそう思った背景や、踏み出せていない背景もあると思います。そこをフラットに聞いてアドバイスするようにしています。
佐久間
想いを理解した上で、アドバイスされるということですね。
トレンダーズに入られて、その後起業されたのはなぜですか?
松本
トレンダーズでCEOや取締役という立場で会社をつくり上場を経験したことで、0からカルチャーや自分の理想とする組織、事業をつくってみたいという想いが強くなったからでしょうか。
佐久間
そう思うきっかけは何かありましたか?
松本
役員という立場は社長が掲げているビジョンや夢、想いを自分事化して一緒に走って叶えていくという立場だと思います。主体性はもちろんありますが、社長の究極のフォロワーであり、伴走者であるべきです。
なので、その役割をやる中で「伴走者ではなく自分で掲げてみたい」という想いが出てきたことに尽きると思います。
佐久間
なるほど。トレンダーズさんとLiBさんで、トレンダーズさんでは追求できなくて、LiBさんでは追及できている要素はなんですか。
松本
1つ「これ!」というのは難しいですが、事業領域という要素はあります。
トレンダーズは僕が入ったときには「マーケティング、PR、女性向け」といった事業領域が決まっていたので、それをいかに拡大するかという思考で入りました。なので、やりたい仕事を選んだかというとそうではありませんでした。
しかし、今のLiBの事業領域は自分にとってライフテーマだと思っています。
佐久間
やりたいことができるというのは起業する本質の1つですね。
最後の質問ですが、「働く女性の問題」という、松本さんが一番の当事者ではないように一見すると思える課題に対して、ライフテーマとして情熱を傾けることができるのはなぜでしょうか?
松本
このテーマは男性も当事者だと僕は思っています。なぜなら、男女がフェアに活躍する社会をつくっていくには男女どちらのコミットも必要だと思うからです。
現代は、経済社会においてマイノリティーの女性側が「ジャンヌダルクみたいに頑張る」という世界ではないと思っています。男女がどちらも歩み寄って解決策を模索していくということがすごく大事なのではないでしょうか。
そんな中、男性はある意味「既得権益側」にいるので、まずは旗を振っていくことがすごく大事だと思っていますし、男性で僕のように「このテーマに興味があり、かつ起業、経営、上場の経験がある」人は珍しいと思います。
そこで、そういった人間がこのテーマに取り組み、旗を立てれば、男性の力、女性の力を掛け合わせてこの問題を本当の意味で解決できると思っています。
佐久間
ちょっとした制約を解決できれば、大きなパワーを出せる女性が多くいると思うので、ご協力できることがあれば協力させていただきたいなと思います。
本日はありがとうございました。
松本
ありがとうございました。